2005年 09月 29日
犬のはなし |
宮本輝の小説のなかでは自分としてはまぁまぁ面白い
といった感想なのやけど、この話の舞台である家庭で
飼われている自分の事を人間だと思っているフックという犬
にかなり感情移入してしまった。
この小説でもそうなのやけど、犬というやつは家庭にいる
となんだかんだで一家の中心になってしまう。
うちの実家でも二匹連続でアイリッシュセッターという種類の
犬を飼っているのやけど、やはり犬がいるのといないのとでは
がらりと家の雰囲気が変わってしまう。
うちで飼っていた初代の犬は、俺が幼稚園の時に親父が麻雀
で勝った貸しとしてウチの家にやって来た。
そして、大型犬としては長生きし、俺が浪人中に14歳で死んだ。
人で言うなら120歳ぐらいやろうか。
この犬は犬のくせに鈍くさく、来た当初から階段からすべり落ちたり、
電柱にぶつかったりしていたので「ドン」と名づけられた。
しかも小心者で、猟犬のくせに道に鳩がいるとビビって進まない。
でもキジがいると興奮して飛びかかるという妙な犬だった。
(もともとキジ猟用の犬らしい。)
頭も悪く、離すと呼んでもなかなか帰ってこないし、飼い主をグイグイ
引っ張って先に進もうとするというバカ犬なのやが、ただ唯一長所が
あり、それは非常に優しい事だった。
頭は使ってなかったが、気は使って生きていた。
昔、ウチでは猫も飼っていたのやが、この猫はドンを非常に怖がって
いてドンが近づくといつもうなって引っかこうとしていた。
ドンはしばらく怖がらないように友好的に近づいて行っていたのやが、
それでも猫が怖がるので、ドンは猫には出来るだけスペースを譲る
ように心がけていたようやった。
猫がドンの餌の近所にいる時は、気を使って近づけないでいるが故に
ご飯を食べられないという意地らしい態度を見せていた。
あと誰とでも友好的に接するので番犬にまったくならない犬でもあった。
見かけはセレブなのやが、中身は小学校低学年並という形容がしっくりくる。
そんなこいつは結構みんなに愛されながら、毎日健康に暮らしていた。
人間で言えば100歳を越えても、散歩は昔ほどグイグイは引っ張らない
ながらも要求するし、メシもたくさん食べていた。
多分、本人も病気で死ぬ気はなかったのやろう、いつまでも生きて
いそうな感じで日々暮らしていた。
ドンが120歳に近づいた頃。
ちょうど俺が受験生の時、ウチのオカンが結構な病気にかかり手術をすること
になった。
ウチのオカンは散歩の度に老犬に「私が退院するまで生きとってな。」
と言いつづけていたらしい。
それを知ってか知らずか、かなりの高齢にもかかわらずドンはあいかわらず
の生活をしていた。
オカンが入院して、一ヶ月後ぐらいやろうか。
手術は無事成功してオカンは退院した。
ドンは相変わらず生きていた。
オカンが退院して一週間後、ドンは体を洗ってもらったらしい。
そしてその日、ケーブルテレビの工事にやって来た人に大変可愛がられ
ていたらしい。
カニ雑炊をしたのでその残りを大変喜んでたいらげたそうだ。
満足げなドンは外に出してくれと訴えていたので、オカンは庭にドンを
放した。
だいぶ時間がたった頃、ドンを家に入れようと名前を呼んだが反応がない。
いくら呼んでも帰って来ない。
不思議に思い庭に探しに出てみると、ドンは家の裏で眠っていた。
ドンはそこで眠るように死んでいた。
俺はこの時、家にいなかった。
この頃は浪人中で家から離れたところで暮らしながら勉強していた。
上の話は電話で聞いたことである。
ドンが死んだという事自体は予想もしていたし、年齢から考えても
寿命なのであまり悲しくなかったが、ただとても偉いヤツだと思った。
ドンは最後の日もとても元気だったらしい、多分やつは生きようと思えば
まだ生きれたのやろう。
ただ、その日が「一番幸せに思い残すことなく死ねる。」
そう思ったのやと思った。
オカンとの約束を果たした後の一番幸せな日に死ぬ。
そう決めていたような気がした。
そして、俺にはなにかそれがとても尊敬に値するものに感じた。
何故かはよくわからない。
ドンが死んだ次の日。
勉強中、居眠りをしていたら夢をみた。
俺は公園にいた。
明るい雨が降っていた。
紫陽花がたくさん咲いている。
足元をみると何故か裸足だ。
そしてもう一つ裸足の足がみえる。
顔をあげると俺より少し年下ぐらいのヤツが立っていた。
よれた白いTシャツをだらしなく着ているが、とても整った
顔立ちをしている。
俺はそいつに「ドン。」と呼んだ。
そこで目が覚めた。
それだけの夢。
ただ妙に心に焼きついた。
その後、またオカンから電話があり、話をしていると
「私、あの子(ドン)次は人間になるような気がするんやわ。」
と言っていた。
俺もなんかそんな気がした。
どうも我が家はアイリッシュセッターと言う犬に縁があるらしく
今はまたも貰われてきた二代目を飼っている。
ただ今飼っている「ブンナ」は女の子やけど。
写真は二代目。
by CoCoschKa
| 2005-09-29 01:35
| ココシュカのつぶやき